ふと側溝の中を覗くと、そこにはちょこんと座って小首を傾げる子猫がいました。周囲の人間の足音やクルマの排気音が気になるのか、キョロキョロとあたりを見回しています。
灰色のコンクリートの中、ほんのわずかな陽の光が差し込む場所を選んで、まるでそこが自分だけの“秘密基地”であるかのように静かにたたずむその姿。
「どうしてこんな所で…?」と思うけれど、私たちが何気なく見かけるその姿の中には、実は深い意味が隠れているのです。
この記事では、そんなのら猫たちがなぜ“狭い場所”や“物陰”を好むのか、その行動の裏に隠された【本能・心理・安心感】をやさしく紐解いていきます。
野生の記憶が教える「狭いほど安心」という感覚
今でこそ、猫は家の中でのんびり暮らす愛されペットですが、猫が今のように人と暮らすようになったのは、ほんの数千年前。
野生時代、猫たちは木のウロや岩穴、倒木の下など、外敵から見えにくい「せまくて暗い場所」を寝床にしていました。外敵から身を守るには、“隠れる”ことが最善策だったのです。
その名残が、今ものら猫たちの体にしっかり残っています。車の下、段ボールの中、塀のすき間、物置の奥――。
のら猫が好んで身を潜める場所は、どれも共通して「外から見えにくい」場所です。あの狭い空間は、猫たちにとっての“安全基地”であると言えるでしょう。
眠る時間は「命を守る時間」
猫は一日の半分以上を寝て過ごす動物。のら猫であっても、1日およそ12〜16時間は眠っていると言われています。
でもそれは「安心しきった眠り」ばかりではありません。
外で暮らす猫たちは、常に音や気配に敏感で、風の音、人の足音、遠くの犬の鳴き声にも耳を立てます。だからこそ、眠るときは「敵が来てもすぐ逃げられる場所」が必要。
狭くて、暗くて、周囲が壁に囲まれている場所は、のら猫にとって命を預けられるベッドなのです。
私たちが布団にくるまるように、猫はブロックの影や空き箱の中で、安心という毛布に包まれているのかもしれません。
「身を隠すこと」でストレスを減らす
オランダ・ユトレヒト大学の実験では、新しい環境で「隠れる場所」を与えられた猫の方が、与えられなかった猫よりもストレスホルモンの値が早く下がったと報告されています。
見通しの良い場所よりも、壁や囲いのある狭い空間のほうが心拍数が安定し、リラックス状態になりやすいのだとか。
のら猫にとって、外の世界は常に変化の連続です。人の声、車の音、天候、縄張り争い。そんな環境の中で、安心できる場所を見つけることは生きる上で欠かせません。
もしあなたがのら猫に出会ったとき、猫が物陰からこちらを見ていたら、それは「興味があるけど、まだ怖い」というサイン。
そんなときは無理に近づかず、「敵意はありませんよ」という合図が伝われば、猫も少しだけ顔を出してくれるかもしれません。
狭い場所は、猫にとって「世界の中心」
のら猫が箱やカゴ、陰に入りたがる理由――それは単なる習性ではなく、“世界を自分のサイズにする”ため。
人間のように大きな社会も、家も、仲間も持たないのら猫たちにとって、自分が落ち着ける空間こそが、世界そのもの。
そのわずかなスペースの中で体を丸め、眠り、起きて、毛づくろいをする。それが猫の「生きるリズム」なのです。
外から見ると「隠れているだけ」に見えても、猫にとってはそこが心と体を整える大切な場所。狭い世界の中で安心して眠れる——その小さな空間こそ、猫にとっての“宇宙”なのです。
まとめ:箱も、陰も、やさしい避難所
のら猫が箱やカゴ、路地の陰に入りたがるのは、かつて野生で身を守ってきた記憶が今も息づいているから。
それは「弱さ」ではなく、「知恵」です。
彼らは危険から身を守り、心を落ち着けるために、今日も自分だけの小さな場所を見つけて、静かに目を閉じています。
私たちができることは、その場所を奪わないこと。雨の日に段ボールを残しておく、日差しの強い日に物陰を作ってあげる――
それだけで猫たちは少し安心して、明日も元気に生きていけるでしょう。今日もどこかの陰で、あの子たちは静かに丸くなって、世界の音をやさしく聴いているのかもしれません。























コメントを残す